刑法112条により、国王・王妃・王位継承者・摂政に対する名誉毀損、侮辱、脅迫を処罰する。刑罰は3年以上15年以下の懲役であり、現在も実際に適用されている。
2018年の刑法改正により、国王に対する侮辱罪を新設。国王を公然と侮辱した場合、1年以上5年以下の懲役および罰金が科される。
タイやカンボジアのような独立した「国王侮辱罪」ではないが、1948年扇動法(Sedition Act)などによって、州の君主(Rulers)に対する一定の批判・侮辱が処罰対象となり得る。したがって、君主に対する特別な刑事的保護が実質的に存在する国として位置付けられる。
刑法299条により、大統領を侮辱する行為を独立した犯罪として処罰する。近年も多数の事件で適用されている。
刑法135条2項により、共和国大統領を公然と侮辱した者は3年以下の自由刑に処され得る。
刑法278条により、共和国大統領の名誉または威信を侵害する行為を処罰する規定が現在も存在する。刑罰は1年以上5年以下の懲役。
刑法90条により、連邦大統領を公然と侮辱・中傷する行為を処罰する規定が現在も存在する。3か月以上5年以下の自由刑が規定されている。ただし、訴追には連邦大統領による一定の許可が必要とされる。
なお、外国元首に対する侮辱を特別に処罰していた刑法103条は2018年に廃止された。
2023年制定の新刑法典には、大統領・副大統領に対する侮辱を処罰する規定(218条・219条)が設けられている。
2026年8月の憲法裁判所判決により、これらの犯罪については、大統領または副大統領からの告訴を前提とする形に制限された。したがって、現在も規定自体は存在するが、その適用には重要な制約がある。
国家機関・国家権力を担う者などに対する「明らかな不敬」をオンライン上で行う行為について、行政罰を科す規定が存在する。
これは「大統領侮辱罪」という独立した犯罪とは異なるため、国家元首個人への侮辱罪というより、国家権力・国家機関への特別な保護として位置付けるのが適切である。
ヨーロッパでは、君主や国家元首を特別に保護する法律は20世紀前半には広く存在していたが、第二次世界大戦後、さらに冷戦終結後になると、表現の自由の拡大とともに次第に廃止されていった。
20世紀初頭のヨーロッパでは、君主制国家が多数存在し、国王・皇帝への侮辱を特別に処罰する制度が広く存在していた。
第一次世界大戦後にはドイツ、オーストリア、ロシアなどで帝政・君主制が崩壊し、共和制への移行が進んだ。
一方、共和制となった国でも、君主に代わって大統領や国家そのものを特別に保護する法律が設けられることがあった。
第二次世界大戦後、西ヨーロッパを中心に民主主義と表現の自由の保障が強化され、君主・国家元首への特別な刑事的保護は次第に縮小した。
例えばスウェーデンでは、君主への不敬罪が1948年に廃止された。
ただし、この時期にも君主や大統領を特別に保護する法律を維持する国は存在した。
冷戦終結と東欧民主化に伴い、国家元首への特別な侮辱罪の廃止がさらに進んだ。
ハンガリーでは1994年、チェコでは1998年に国家元首等への特別な保護が廃止された。
また、フランスでは2004年に外国元首への侮辱罪、ベルギーでは2005年に外国元首に対する特別な侮辱罪が廃止された。
2010年代以降も廃止の流れは続いた。
フランスでは、サルコジ大統領への批判的なプラカードを掲げた人物の有罪判決について、欧州人権裁判所が2013年に表現の自由を保障する欧州人権条約10条違反と判断した。同年、大統領侮辱罪が廃止された。
ノルウェーでは2015年に新刑法が施行され、旧刑法に存在した国王への不敬に関する規定が廃止された。
ドイツでは外国元首侮辱罪が2018年に廃止された。
オランダでは2020年に国王への特別な不敬罪が廃止された。
ベルギーでも国王侮辱罪が2023年に廃止された。
この結果、ヨーロッパでは君主制そのものを維持していても、君主を特別に刑事保護する制度を廃止する国が増えている。
一方、スペインでは国王・王妃等に対する侮辱・中傷を特別に処罰する規定が現在も刑法に残っている。また、ドイツ、イタリア、ポーランド、トルコなど、共和制国家でも国家元首に対する特別な刑事的保護を残す国がある。
中東では、君主制国家や権威主義的な共和制国家を中心に、国家元首・王族・国家体制に対する侮辱や批判を刑事処罰の対象とする制度が広く存在する。
特に湾岸諸国などの君主制国家では、国王・首長・王族への侮辱だけでなく、国家の威信や統治体制への批判そのものを規制する法律が存在する場合がある。
この地域では、ヨーロッパで見られた「君主個人への不敬罪」から「国家元首・王族・国家体制への政治的表現規制」までが連続的に存在しており、単純に一つの類型として扱うことには注意が必要である。
北朝鮮では、金日成・金正日・金正恩らの指導者に対する批判や侮辱は、単なる名誉毀損というよりも、国家体制・指導者への反対行為として重大な政治的・刑事的問題となり得る。
そのため、タイなどの「君主侮辱罪」と同じ形式の法律として比較するより、指導者崇拝と一党支配を維持する政治・刑事制度の一部として捉える必要がある。
中国では、国家指導者個人への侮辱を処罰する法律と、欧州型の「大統領侮辱罪」とを単純に同一視することはできない。
一方で、国家政権転覆、国家分裂、国家機密、社会秩序などに関する刑事法・行政法上の規制や、インターネット上の言論規制によって、共産党・国家・指導者に対する批判的言論が広く制限され得る。
したがって、中国については「国家元首侮辱罪」という単一の罪名より、一党支配体制を保護する広範な法制度・言論統制として比較する方が適切である。
世界の「不敬罪・国家元首侮辱罪」は、現在では大きく次のように分類できる。
| 区分 | 代表例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 君主への特別な侮辱罪が強く機能 | タイ、カンボジア | 君主個人への侮辱を明確な犯罪として処罰 |
| 君主への特別な保護が存在 | マレーシア、スペインなど | 独立した不敬罪とは異なる制度も含む |
| 大統領への特別な侮辱罪等 | トルコ、ポーランド、イタリア、ドイツ、インドネシア | 共和制でも国家元首を特別に保護 |
| 国家権力への「不敬」を処罰 | ロシア | 国家元首個人ではなく国家権力への特別保護 |
| かつて存在したが廃止 | フランス、ノルウェー、オランダ、ベルギー、スウェーデンなど | 表現の自由の拡大とともに廃止 |
| 権威主義的な体制による言論規制 | 中東諸国、北朝鮮、中国など | 指導者・王族・国家体制への批判を広範に規制 |
全体として見ると、ヨーロッパでは20世紀を通じて「国家元首を特別に刑事保護する制度」から「国家元首も原則として一般人と同様に批判できる制度」へ移行する傾向が強い。
一方、アジア・中東などでは、君主制・権威主義体制・一党支配体制などを背景として、現在も国家元首や統治体制への特別な刑事的・行政的保護が残っている。
ただし、「不敬罪」「大統領侮辱罪」「国家体制への反逆・転覆罪」は法律上は異なる制度であるため、「指導者への批判をどの程度法的に保護しているか」という比較軸で整理することが重要である。
| 国・地域 | 当時の体制 | 君主・国家元首への特別保護 |
|---|---|---|
| イギリス | 立憲君主制 | 国王に対する不敬・扇動的表現を処罰する伝統的制度が存在 |
| ドイツ帝国 | 帝政 | 皇帝・君主制を特別に保護する刑事規定が存在 |
| フランス | 第三共和政 | 大統領・国家・公的機関への侮辱を処罰する制度が存在 |
| イタリア王国 | 立憲君主制 | 国王・王室・国家に対する特別な刑事的保護が存在 |
| スペイン王国 | 立憲君主制 | 国王・王室への侮辱を特別に扱う制度が存在 |
| オーストリア=ハンガリー | 帝国・二重君主制 | 皇帝・王室への特別な保護が存在 |
| ロシア帝国 | 皇帝専制 | 皇帝・皇族への不敬は重大な犯罪として扱われた |
| ベルギー | 立憲君主制 | 国王への特別な刑事的保護が存在 |
| オランダ | 立憲君主制 | 国王への不敬罪が存在 |
| ノルウェー | 立憲君主制 | 国王への名誉・威信を特別に保護する規定が存在 |
| スウェーデン | 立憲君主制 | 国王への不敬を特別に処罰する制度が存在 |
| デンマーク | 立憲君主制 | 国王・王室への特別な刑事的保護が存在 |